教師も便利な低学年からのICT学習と環境づくり

- ひな形集と校内ページで作品の簡単保存とすぐ鑑賞 -

1 はじめに
 コンピュータでせっかく作った児童の作品の保存に困ることがある。特定のフォルダへのファイ ル保存には,ファイルの場所と名前と種類を指定する必要がある。これは,低学年の児童とってむ ずかしい作業である。
 このような教師や児童・生徒の負担を軽減するため,ひな形集からファイルを選び,作成後,上 書き保存するシステムを用意した。ファイル保存の簡略化だけでなく,作品の閲覧や再編集にも便 利なICT学習の環境となっている。
 このシステムは,学年組と作品内容でフォルダ階層を設定し,児童・生徒一人一人に用意したひ な形ファイルと,入り口となるファイル選択ソフト,作品閲覧用リンク集の校内ページで構成され る。これにより,ファイルの保存が簡単になり,児童・生徒は学習に,教師は指導集に集中できる ようになった。作品ごとに整理されているため再利用しやすい。  校内ページで,保存した作品をすぐに閲覧できる。児童はその場で作品の鑑賞や手直しができる。 校内掲示板で学年や時間を越えての意見交換もできる。また,校外ページで,リンク集を整備して 調べ学習をしている。  

2 実践内容
 ひな形集による作品作りと校内ページによる閲覧システムとITC学習の環境作りについて説明 する。ひな形集は,年間計画学年別技能などをもとに準備している。
(1) お絵かきファイルと保存
① ファイルの保存(どこに?名前は?形式は?)  絵の印刷や公開など再利用するには,同じテーマの絵を同じフォルダに集めるとよい。しかしフ ァイルの場所・名前・形式の指定はむずかしい。そこで,あらかじめ学年・組・テーマで分類した 白紙の絵を「1年/1組/運動会/11_01.png」のように用意する。白紙のファイルが保存場所・名前 ・形式の情報を持った「ひな形」であり,お絵かきのあと上書き保存するだけでよい。
② ひな形ひな形集  ひな形を「開き(選択)」「絵をかき(編集)」「上書き(保存)」すると,児童は上書きだけで「ファ イルの場所・名前・形式」を指定した保存ができる。絵の他にもWebページやはっぴょう名人の 形式で作成すると,絵日記本のおびなどいろろいな「ひな型集」へ発展できる。
③ ファイルの入り口(階層の近道)  作品の共有に便利なLANも,ネットやフォルダの階層が深くなると目的のファイルにたどり着 くのが困難になる。そこで画像の閲覧やファイル選択ソフトのViXの起動設定機能を利用して, ひな形のフォルダへの近道となる学習の入り口を用意した。
④ 送る(Snd to)>パーソナルビュー(ViX)>関連づけ(まめファイル)  編集ソフトの選択にwindowsの「送る(Snd to)」機能を活用した。右クリックから編集ソフトが 簡単に選択できるが,低学年の児童にはこの右クリックすら難しい。そこで,ViXのパーソナル ・ビューを利用して左クリックだけで選択した。それでも選択に迷う児童がいたので「まめファイ ル」の関連づけ機能で指定のソフトが開くようにした。
⑤ フォルダのかくれんぼ  マウスの操作ミスのために,クリックのつもりがドラッグとなりフォルダが移動してしまう問題 がよく起こった。そこでファイル選択ソフトをViXから,移動時に確認を要求する「まめファイル」 にした。これによりフォルダの「かくれぼ」が激減した。
(2) Webベージで作品づくり
① 個人の追求Webページ  Webページ(html)の編集ソフトにはじめはWindows附属の「フロントページ」を使い,白紙 から始めて作表や図の貼り付けまで指導した。個性的な個人ページ集になったが,ほとんどの 作品を修正することになった。教師の負担が多かった。
② Webページ形式のひな形   絵と文のWeb形式のひな形を用い,児童だけの作成が可能となった。かいた絵を保存するだけ でWebページに掲載されるようにひな形を設定した。編集ソフトをpng形式の画像に対応した 「コンポーザ」に変更した。
③ 紹介ページ「わたしのこの一冊」(インラインフレームの活用)  ひな形で教師の負担は軽くなったが,文の編集中に表をくずしたり,絵を消したりする問題が残 った。そこでインラインフレームで文を独立させたひな形に改良したため,ほぼ問題はなくなり教 師は作品の指導に力が注げるようになった。編集ソフトをコンポーザからワープロ感覚で使える アルファエディットに変更した。
④ 木の一年(理科)  4年生の理科では動植物の一年間の変化を学習するので,木の一年間の変化を写真撮影をし,W ebベージにした。自分の撮った木が分からないという課題が生じた。そこで本人もいっしょに写 って目印とした。写真を児童のフォルダに貼り付け名前を変更すると,ひな形に表示される。
⑤ ひな形の準備  この他,絵日記本のおび個人研究など,学習にそったひな形を作成し,教材フォルダに児童 数分コピーすれば,いつでもひな形集が準備できる。また修正や改良も簡単にできる。  新たなひな形集を開発しなくても,Webサイト「こんぴゅうた室」からダウンロードすれば, 上記のようの学習がすぐに準備できる。
(3) はっぴょう名人の活用
① はっぴょう名人のひな形  Webページ形式のひな形は効率的であるが,画一的で児童・生徒の個性が出にくい。その点, はっぴょう名人の白紙をひな形にすると配置に制約がなくなる。ただし,サンプル画像を多用する と個性が消えるので,自分の絵を使うよう指導している。
② まとめや年賀状  操作の簡単な発表名人は,高学年でなくても扱え年賀状や新聞などの作成も可能である。また研 究のまとめや発表にも活躍している。
(3) タッチタイプの習得(ドリル学習)
 これからの児童・生徒はキーボードのタッチタイプ入力が大切だが,その習得は授業に位置づけ されていないのが現状である。そこで,中学年から習得できるタッチタイプの練習を計画した。こ の他,算数を中心にドリル学習ソフト「じぶんでドリル」を用意した。
① ゲーム形式の練習ソフト  ゲーム形式の練習ソフトは児童・生徒を夢中にさせる。そしてタッチタイプの説明がほぼ明記さ れている。しかし,いきなりタッチタイプはできない。そこで,スモールステップで練習を進める 環境を計画した。
② 練習ソフトの開発  画面のキーの図と指の指示でタッチタイプを練習するドリルソフトを開発した。最初にホームポ ジションと指の動かし方を指導して「ABC」の練習に進む。2時間目から手元を紙でかくしタッ チタイプで練習する。次にローマ字の「あいうえお」に進む。そして確認の「テスト」をする。
③ 繰り返し練習  中学年から始めて6年生まで毎年練習することで,過半数の児童がタッチタイプを習得する。た だし,実際の文字の入力で戸惑う児童には無理をせず50音表での入力を勧めている。ローマ字の 学習前の3年生でもタッチタイプの習得は可能であるが,ローマ字の理解と必ずしも比例しない。
(4) 作品の再利用
 できたての作品がリアルタイムで閲覧でき,作品の指導に生かせる。そして絵のリサイズや減色 などの編集をし目次をつけて,学校のWebページに公開できる。また,校内ページに公開すると, 学年を超えての閲覧や掲示板での意見交換ができる。卒業記念のCDに作品を再利用できる。
① 印刷  作品は印刷してクラスに掲示したり,児童自身に返したりしている。文字数が多くてインライン フレームからあふれるときは,文字の大きさや行間を調整して印刷する。
② 公開(外部公開ページ)  作成したばかりのフォルダには,未使用のひな形や絵のバックアップなど不要なファイルが残っ ているので削除する。目次を用意し,絵のリサイズ減色をする。児童名を削除する。これらの作 業には画像やhtmlファイルの編集の技能がいるが,見やすく無駄のないWebページになる。
③ 校内ページと掲示板  公開用のWebファイルは校内ページにも公開し,みんなで鑑賞できる。その感想や意見を交換 するために,校内の掲示板を活用している。鑑賞して「よかったこと,もっとよくするために」な どの感想や意見を学年を越えて書き込んでもらっている。  
(5) 保守と管理
① バックアップ  ひな形集は階層で整理しただけのひな形ファイルの集まりであるから,フォルダごとコピーする だけでバックアップでき,人為的,機械的トラブルに備えることができる。
② 年次更新  年次更新はひな形集のフォルダの名前を変えるだけでよい。そして未使用のひな形集を貼り付け ると新年度からすぐに使用できる。  じぶんでドリルの場合は,学習記録フォルダと学習者名ファイルの削除か名前変更だけでよい。 次の学習から,自動的に記録フォルダやファイルが作成される。学習者名は,じぶんで入れる。低 学年では,教師が準備する。
③ ひな形の改良と追加   ひな形は,より使いやすく改良したり,新たに作成したりでき,それを児童分コピーして出席番 号で名前を付けるとすぐに利用できる。年度の途中でも,修正や追加ができる。  

3 成果と課題
 ICTに慣れない教師でも,お絵かきやWebページの作成,タイピング練習,算数などのドリ ル学習が無理なく指導できるICT学習環境を実現できた。児童の作品を再利用して,ホームペー ジへの公開や校内ページでの交流ができた。ひな形集やシステムを改良して,トラブルを軽減した。
 児童の作成した作品がすぐに閲覧できるだけでなく,作品のバックアップやひな形集の年次更新 などの維持管理も基本的なファイル操作だけで済み,教師への負担が軽い。  ひな形集システムの導入には,既存の学習システムの変更もソフトの費用も不要であり,サーバ へのデータ等の貼り付けや児童機へのアイコン設定も深い専門知識はいらないため,数時間で児童 機40台規模の設定ができる。
 課題としては,教師にひな形を編集して上書き保存するという発想がなく,ひな形集での学習の 良さが伝わりにくいことがある。このためシステムの理解と利用法の研修が必要である。  ひな形集システムの設置は,ファイルのコピー・貼り付けとアイコンの設定と簡単である。ただ 最近は,保護システムが導入されており,これを解除する知識や技能が要求される。
 児童がフォルダの階層を扱うとどのシステムでも「フォルダのかくれんぼ」が生じる。このひな 形集では,「まめファイル」の警報機能で注意を促して居るが,それでも年に2~3回は「かくれ んぼ」があるため,かくれたフォルダを捜して戻す作業が生じた。    

4 おわりに
(1) 無理のない学習環境づくり
① 低学年でも学習できる環境  お絵かきでは,ひな形の白紙を呼び出して絵をかき,そのまま上書き保存をする。それは低学年 の児童にも学習できる。文字編修では,Webページ(html)形式のひな形を用意し,これに文字を 書いて上書き保存する。ひな形を工夫することで「絵にっき」や「本のおび」「写真+説明」など いろいろな学習に広げることができる。
② リアルタイム  作品は校内ページやまめファイルですぐに鑑賞できるので,学級内での交流や教師の指導,児童 の作品修正ができる。(はっぴょう名人の作品は,Webファイル用に加工する必要がある。)
③ 教師の負担を軽減  ファイルを開いたり保存したりする技能面の指導が楽になるばかりか,児童への作品指導に力を 注ぐことができる。また,作品ファイルのバックアップや年次更新もコピー・貼り付けだけで簡単 に実施できる。また絵は,一括の印刷も簡単にできる。
(2) 基礎的なICTスキルの習得
① 文字入力(タッチタイプ)  文字入力では,タッチタイプがこれからの児童・生徒に欠かせないが,授業の中で練習する機会 は皆無に等しい。そこでスモールステップで学習するタッチタイプの練習ソフトを開発し,中学年 から繰り返し学習する計画を立て,卒業までに過半数の児童がタッチタイプができるようにした。
② お絵かき,文字編集  お絵かきや文字編集もICTの学習では,大切な技能である。とくにお絵かきでは,「塗りつぶ し」の技能をを大切にして分かりやすい図の作成をめざしている。また,説明文を入力することで, 漢字変換や改行などの文字の入力・編集の技能を身に付けている。 ③ フォルダ階層の理解  分かってしまうと当たり前のフォルダの階層も,慣れないと大人でも苦労する。学習の度に学年 組や作品で分類されたひな形集を開くことで,児童はフォルダ階層のイメージが自然に身につくよ うになる。
(3) 問題が起きにくい環境づくり
① フォルダのかくれんぼ  ファイル操作での問題は,児童・生徒が無意識のうちにするドラッグによるフォルダの移動であ る。かくれてしまったフォルダを元に戻すには,多少の知識が必要であり,そのため困難を感じる 教師もいる。ファイル選択に「まめファイル」の警報機能を活用することで「フォルダのかくれん ぼ」のトラブルが大幅に減っている。
② ファイルの壊れにくさと使いやすさ  Webページ形式で用意したひな形も改良を重ねている。編集中に起きる表の崩れや画像の削除 を防いだり,学年にあった文書量に変更したりしている。
 まだまだ改善の余地はあるが,学習しやすく保守も楽なICT学習環境を開発することができた。